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福岡家庭裁判所小倉支部 昭和31年(家イ)412号 審判 1957年2月12日

申立人 上野君代(仮名)

相手方 大野新一(仮名)

主文

申立人と相手方間の内縁関係を解消する。

申立人は相手方に対し金壱万四千円を支払わなければならない。

理由

申立人は相手方との内縁関係を解消することを求め相手方はこれに反対しもし内縁関係を解消するのであれば慰藉料として金拾万円を要求すると述べた。

当事者双方の陳述並びに当裁判所における事実調査の結果を綜合すれば左記事実が認められる。

一、申立人は亡夫定市との間に四男一女あり長女は○○市○○○勤務山川春信に嫁し長男は○○市役所に勤務して居り相手方は妻梅子との間に長男及び長女(新川雄一に嫁す)があるものなるが約五年前両名とも失対人夫として同一職場に稼働中懇意となり夫婦関係を結ぶに至つたが申立人は相手方が教養低く常識を逸した言動(例えば家庭内夫婦間の秘事を軽々しく口外する等)申立人長男家族の体面、次男に対する悪影響等を考え内縁解消を希望して居たところ昨年九月頃夫婦口論の結果相手方が時計を入質の上飮酒、ビンゴ等に耽り帰宅しなかつたことが直接の動機となり申立人より相手方に対し手切金六千円を支払い内縁関係を解消することとし相手方は申立人家を出たが再び三日後に関係を復活し相手方は申立人家に入ろうとしたが申立人の長男長女のむこに反対され激昂して申立人家の近所で卑猥なことを大声でどなり或は投石し長男長女のむこの勤務先に電話や口頭で脅したり色々嫌がらせをするので申立人は相手方に対する愛情全く醒め内縁関係を解消するため本件申立に及びたること。

一、相手方は馬鹿正直といわれる位仕事はよく働き同棲期間中失対人夫として得る日給三百十円乃至三百二十円中晩酌一合乃至一合五勺タバコ十本代を除き残額全部を共同生活費に入れ申立人家の生活に相当貢献してきたこと。

一、申立人には財産なく申立人が失対人夫として得る賃金と長男の入金七千円で生計を立てて居り相手方も無資産で失対人夫による賃金が唯一の収入であること。

一、申立人及び子女親族は申立人と相手方との内縁解消を熱望し相手方の子女親族も相手方が申立人との内縁を解消し家に帰り妻を呼び寄せ家庭を再建することを希望していること。

一、相手方の妻梅子は相手方が申立人と同棲し家庭を雇みないので下宿人と関係し家出したが現在情夫と別れ女中奉公をしているが相手方との婚姻は未だ解消されていないこと。

よつて案ずるに一夫一婦主義は我が国法の精神であり配偶者あるものが重ねて他のものと夫婦関係を結ぶことは人倫の大義に反し法律の許容せざるところでありこのような関係にある内縁の当事者は婚姻継続中は何時にてもこれを解消し得るものと謂うべくこれに前示事実を併せ考うるとき申立人の本件申立はこれを許容し相手方が五年間に亘り申立人一家の生活に寄与した補償として申立人より相手方に対し相当の金額を支払わしめるを相当と認める、而してその金額は当事者双方の資産収入状態その他諸般の事情を斟酌し金二万円と定めこれより既に申立人より相手方に支払いたる六千円を控除し残金一万四千円を申立人より相手方に支払わしめることとする。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 龜井勝一)

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